アイドルの文脈における「つながり」の定義

はじめに

NGT48 第三者委員会調査報告書において、私的領域における接触を「つながり」という言葉で表現している。この「つながり」はルールを守って応援しているファンへの裏切り行為であるため回避されるべきであり、「つながり」を持ったメンバーに何らかの処分を科すことを提言している。「つながり」はNGT48だけの問題ではない。ひいては、男性アイドルも含めたアイドル全体の問題である。華々しいアイドル人生を一瞬で終わらせる可能性のある「つながり」について考えたい。

なお、「つながり」と恋愛感情を同一視するファンもいるが、恋愛感情は「つながり」を持つための必要条件ではない。つまり、恋愛感情は、ごく一部のファンが「つながり」を持とうとする動機のひとつとして挙げられるが、「つながり」を持とうとする全てのファンに恋愛感情がある訳ではないということである。同様に、「つながり」を持ってしまったメンバーも必ずしも、そのファンに対して恋愛感情を抱いているわけではない。したがって、「つながり」の問題と「恋愛禁止」の問題は別問題だと考える。

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「つながり」と「恋愛」の正しい関係図

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「つながり」への誤解

「つながり」の定義

アイドル視点:

アイドル活動をしていなければ親密な関係にならなかった人々と、金銭授受の伴わない、公にできない関係を持つこと。

ファン視点:

アイドル活動をしている以前のアイドルと親密な関係でないにも関わらず、一般的なファンがアイドルを応援するという金銭授受の枠組みを超えて、アイドルと接触すること。

 

「つながり」ではない関係

・家族・親戚

血縁上、あるいは戸籍上、アイドルの家族や親戚だと認められる人という条件に加え、アイドル自身が家族、あるいは親戚だと認識しており、アイドル活動をする以前から習慣的に親交のある人。

「有名になると親戚が増える」と言うが、血縁上、戸籍上、親戚関係が認められる場合であっても、アイドル活動を始めた後に知り合った家族や親戚は、「つながり」の意図をもって接触を試みている可能性があるため、注意する必要がある。

・学校で出会った友人

アイドルが通う予定の高校や大学の情報を手に入れ、あるいは芸能高校に入ることを見越して、「つながり」を目的に入学するファンも稀に存在するが、ほとんどの受験生がこのような目的で進学先を選ばない。

居住地域が近かった、クラス替えで一緒になったなど偶然が重なり、アイドルと知り合ってしまった人に、「つながり」は認められない。

ただし、同じ学校、同じクラスといった条件こそ揃っているものの、アイドル活動を開始する以前に親密な関係でなかった人が、接触を試みようとした場合は「つながり」にあたる。

・地元の友人・幼馴染・義務教育前の友人

これらの友人との関係は、アイドル本人が幼い時に築かれたものであるため、両親の影響や出生地・出身地という環境により築かれた関係であると言える。

したがって、この関係を回避、あるいは断絶することは難しく、アイドル活動を始めたあとも習慣的に親交のある場合は「つながり」を認められない。

・アイドルが金銭を払うことで成立する友人・知人

例として、習い事の先生や友人、ボイストレーナー、ダンス講師、ジムのトレーナー、美容師、医師などが挙げられる。こういった人々は、アイドルから金銭を取り、アイドルに対してサービスを提供しているため、「つながり」とは認められない。

しかし、そういった関係にも関わらず、金銭を支払わずに会ったり、サービスの範疇を超えたことを求めたりすることは、「つながり」にあたる可能性もあるが、公にできる関係であれば問題がない。

・メンバー

同僚にあたるため、いかなる場合も「つながり」にあたらない。

・マネージャーを含む全てのスタッフ

アイドルがスタッフと親密な関係を築くことは極めて自然なことである。

稀に、アイドルとの「つながり」を目的にマネージャーやスタッフになる者もいるが、マネージャーを含むスタッフは、給料をもらってメンバーと関係を築いているため、「つながり」とは認められない。

マネージャーやスタッフはあくまで裏方であり、アイドルがあえて公に晒す必要はないが、公にできる関係であれば、マネージャーやスタッフが退職した後に関係が続いていても問題がない。

・共演タレント

アイドルが共演タレントと親密な関係を築くことは極めて自然なことである。

しかし、タレントは各々の事務所に所属しているため、お互いの事務所の規則を遵守する必要がある。

稀に、アイドルと「つながり」を持つためにアイドルとなる者もいるが、公にできる関係であれば問題でない。

 

・意図しない遭遇

ファンであろうがなかろうが、アイドルと意図しないで遭遇する可能性はある。その際、アイドルのプライベートを尊重するという観点から、声をかけるべきではない、握手やサインを求めるべきではないという意見もあるが、有名人を前にして興奮状態にあると仕方のない行為ともいえる。しかし、LINEのIDを教える、追跡するといった、もう一度会おうとする行為は「つながり」にあたる。

また、ネット上、あるいは友人・知人の遭遇情報に基づいて遭いに行く行為は、意図して遭遇しようとしているため、「つながり」にあたる。

 

「つながり」にあたる関係

・上記の条件を満たさない者(ファンを含む)

 

「つながり」を求めるファンへ

アイドルが卒業する前に、何らかの関係を築きたいのであれば、ファンを辞める必要がある。

公にできる関係に限られるが、「共演タレント」「マネージャーやスタッフ」「メンバー」「アイドルから金銭をもらいサービスを提供する人」になれば、堂々と関係を築くことができる。

 

「つながり」を持ったアイドルを責めるファンへ

上述のように、「つながり」を持ってしまったアイドルが必ずしも、そのファンに対して恋愛感情を抱いているわけではない。「つながり」を持ってしまうメンバーの心理を理解すべきである。

ネット上での誹謗中傷や人気メンバーとの売り上げや仕事の差など、アイドルは絶えずストレスのある環境に晒される。そのような状況の中、自身の膨大な経済力をほのめかすファンや事情通のように情報を持っていることをほのめかすファンにゆすられると、「このファンは味方にしておいた方がいい」「このファンを敵に回すと怖い」とやむを得ず、「つながり」を持ってしまう者もいる。

本来なら、運営や警察に相談すべきであろう事柄も、大事にしたらファンから嫌われてしまうどころか、復讐されてしまうかもしれないと相談できない場合もある。

当然ながら、「つながり」を持ってしまったメンバーのプロ意識は、「つながり」を持たずに真摯に活動しているメンバーよりも低いと言える。しかしながら、責められるべきは、「つながり」を持ってしまったメンバーよりも、「つながり」を持とうしたファンである。

 

「つながり」≠肉体的関係

何度も繰り返しているように、「つながり」と恋愛禁止は別問題である。ネット上では、「つながり」とは恋愛関係に基づいてファンと肉体的関係を持つことと解釈する者もいる。しかし、「つながり」は、恋愛禁止というアイドルの村掟の次元で語るべきものではなく、ストーキング・つきまとい行為というれっきとした犯罪行為として語られるべき問題である。

女性・男性問わず、アイドルファンが、アイドルに対して清純であることを求めることは極めて自然なことであるといえる。しかし、あたかも「つながり」を持っているアイドルが清純ではない、女性の場合は非処女だと責め立てることは論点がズレている。

 

「つながり」は伝染しない

「つながり」を持ったメンバーに対して、解雇・卒業を要求するファンもいる。あくまでケース・バイ・ケースだが、深刻な事案に関してはそのような厳しい処分が下されて当然である。しかし、少しでも「つながり」の疑いのあるメンバーに対して、追放しようとする運動は過剰であると考える。「つながり」に対して強い嫌悪感を抱き、「つながり」撲滅運動を担うファンは「つながり」をあたかも他のメンバーに伝染するもののように解釈している。しかし、「つながり」は全体的な風紀の乱れを生む可能性こそあるものの、直接「つながり」の関係が他のメンバーに移ることはない。

むしろ、「つながり」の絶望的な側面は、どんなに「つながり」を持ったメンバーを排除していっても、次の「つながり」を持つメンバーが生まれてしまうことにある。つまり、撲滅すべきは「つながり」を持ってしまったアイドルではなく、「つながり」を持とうとするファンなのである。

 

 

アイドルだっていろいろあるんだよ!

中井りか 

 

アイドルは二元論では語ることができない。もっと多元的なものである。白いアイドルと黒いアイドルに綺麗に分けることができたら、黒いアイドルを一斉に排除して真っ白なアイドル・グループができるが、実際にはグレーのアイドルもいっぱいいる。AKB48が真っ白なグループであったら、指原莉乃は生まれなかったであろう。

確かに、二元論で語った方が分かりやすくて面白いという側面もある。特に女性アイドルに関しては、白か黒かの基準を処女か非処女かで判断しようとするファンもいる。しかし、「つながり」の問題を白か黒か、処女か非処女かといったように考えてはならない。

諸悪の根源は、「つながり」を持とうとするごく一部のファンにある。もちろん、プロ意識の低さから「つながり」を持ってしまったメンバーにも非はある。しかし、健全なファンがすべきことは、「つながり」を持ってしまった、「つながり」を持っている可能性があるメンバーを責めることではない。「アイドルだっていろいろある」ことを受け止めて、それでも応援したいと思えるアイドルを応援するしかない。

今回の記事では、アイドルとファンの関係に重点を置いたため、運営については詳細に述べなかった。しかし、「つながり」を持とうとするごく一部のファンに厳しい処分を下さない運営は当然非難されるべきだと考える。