ジャニー喜多川氏の死去でジャニーズが直面する5つの問題

アイデンティティの喪失

⠀これまでデビューしたグループとメンバーの全てに共通する特徴は、ジャニー喜多川氏によってプロデュースされてきたということのみです。「ジャニーズらしさ」を考えたときに、かっこいい、中性的、低身長などを思い浮かべる人もいると思いますが、必ずしも全てのグループやメンバーに共通するものではなく、あくまで傾向であってジャニーズを包括するアイデンティティとしては不十分です。

⠀女性のアイドルグループでは、曲や制度によるアイデンティティがあります。例えば、48グループや坂道シリーズは秋元康作詞の楽曲を歌い、ハロプロのグループは全ての楽曲ではありませんが主につんく作曲の楽曲を歌ってきました。制度面では、48グループにおいては選挙、握手会、劇場公演などがあり、アイドルグループではありませんが、宝塚においては組制度、トップスター制度などがあります。ジャニーズにおいて、歌われる楽曲の作詞家や作曲家はグループによってまちまちです。唯一見られる制度としてジュニアからのデビューが挙げられますが、デビューの基準に明確な指標はなく、ジャニー喜多川氏の判断に強く依存している構造でした。

⠀このように、ジャニーズの象徴としてグループやメンバーを統べていたジャニー喜多川氏こそ、ジャニーズの唯一のアイデンティティでした。ジャニー喜多川氏がこの世を去った今、ジャニーズらしさとは何なのでしょうか?また、ジャニー喜多川氏を模倣する手法は果たして効果的なのでしょうか?

 

⑵人材確保の難化

⠀即ち、男子やその周辺の女性に「ジャニーズに入りたい」と思わせる求心力の低下です。もちろん、ジャニー喜多川氏の死去によって、ジャニーズの今後が危ぶまれる中、子どもの書類を送る保護者は減るでしょう。

⠀それだけでなく、SMAPや嵐といった国民的アイドルグループが第一線を退いたことも求心力の低下の一つです。

⠀ただでさえ少子化であるため、事務所に新規に入所を希望する絶対数の減少は免れません。

⠀また、ジャニーズが男性アイドル界を独占していた水面下で、LDHのアイドル的人気化やその他大手事務所の若手俳優を集めたダンス&ボーカルグループの登場、比較的圧力をかけにくい地方におけるご当地アイドルの誕生など、密かに非ジャニーズの男性タレントたちが準備を進めています。他にも、K-POPオーディションの日本上陸や秋元康の男性グループ、男女混合グループのプロデュースへの着手などが次々と見られています。現在、これらの男性グループは自らの防衛のためにアイドルグループと自称しませんが、圧力が緩和しアイドルグループを自称し始めたら一気に男性アイドル戦国時代の突入です。

⠀アイドルが多極化することは、男子やその周りの女子たちの憧れが多極化することでもあります。かっこいい男の子にジャニーズ受けてみなよ!という時代が終わりを告げ始めているのです。

 

⑶ジャニーズ内高齢化

⠀女性アイドルグループには、卒業という選択肢がありますが、ジャニーズにはありません。メンバーがグループを抜けるときは、望ましくない場合が多く、グループが解散や活動休止に至る場合も円満ではないことがあります。

⠀また、タレントらの発言から、ジャニーズの給与体系が年功序列であることがうかがえます。居座れば居座るほど、居心地が良い環境であることは間違いないはずです。したがって、稼ぎ時である若いタレントたちは大御所のタレントの養分になり続けなければならないのです。

⠀このように、ジャニーズ事務所は終身雇用や年功序列という日本型企業の典型的な特徴を持ち合わせていると言えます。ただでさえ、働き方改革で終身雇用や年功序列が見直されているにもかかわらず、従来の契約形態を続けていれば時代にそぐわない状態に陥ってしまうと考えます。

 

⑷インターネット展開への遅れ

⠀滝沢氏の采配によってジャニーズのインターネット解禁が急速にすすめられていますが、ここで指摘したいのはインターネット展開の初動が極めて遅かったことです。

⠀ついこの前まで、タレントの肖像権の保護のため、インターネットに画像や動画を掲載しないという頑固なこだわりを見せていました。そのこだわりから、ファンもインターネットはテレビより下位の場所と解釈するようになりました。そのため、望ましいニュースかと思われたインターネット解禁にも懐疑的な声が上がりました。

⠀さらに、インターネット解禁はジャニーズ内で最も序列が下位のジュニアたちから始まりました(一部のデビュー組メンバーを除く。)しかし、徐々にいわゆるデビュー組にもインターネット解禁の兆候が見られるようになりました。そこで、ファンたちはなぜジュニアがやっているようなことをデビュー組もやらなければいけないのかという意見も噴出しました。

⠀このように、本来は商機しかないインターネットをテレビよりも下位の場所と長い間位置付けてしまっていたことで、ファンもインターネット解禁のスピード感についていけていないということです。

 

⑸海外展開への遅れ

YouTubeに動画を投稿するなど、ジュニアのユニットを中心に急速な海外展開を計画しているように伺えます。

⠀しかし、ジャニーズのグループは日本市場で売れることを目的に設計されているため、海外市場にそっくりそのまま輸出することは難しいと考えられます。

⠀海外受けする男性アイドルの答えを導き出したのは韓国です。韓国は日本よりも国内市場の縮小が切迫した問題であり、K-POPの海外市場開拓は急務でありました。ルックスやパフォーマンススキルをわかりやすく高め、ロー・コンテクストにすることで広く浅く親しまれるアイドルグループの解を導き出しました。

⠀一方、日本は国内市場が極めて大きく、海外展開の必要性があまりありませんでした。そのため、ジャニーズは日本の女性に狭く深く親しまれるグループを作り、現に日本国内での売り上げやコンサート動員は現在においても莫大です。しかし、人口減少やグローバル化から海外展開の必要性が増し、今になって動き始めたということです。

AKB48の場合は、主に東南アジアにAKB48の楽曲やシステムを移した姉妹グループを作るという解を導き出しました。しかし、前述のようにジャニーズらしさやジャニーズ的制度が曖昧であるため、東南アジアにジャニーズを再現することは難しいと考えます。

⠀さらに、未完成な少年を愛でるように応援する感覚やパフォーマンススキルの低いメンバーを愛おしく思う感覚は、海外の人にはわかりにくい感覚です。

⠀海外受けするためにわかりやすくパフォーマンススキルやルックスを高め、ロー・コンテクストな仕上がりにするというK-POP路線を取るか、万人受けすることを望まず、これが日本で人気のアイドルだ!とブレずにハイ・コンテクストなまま海外へ輸出するか、2択が迫られていると言えます。