大坂なおみに「漂白剤」発言のAマッソのぜひ見てほしいコント
大坂なおみに対して、差別的な発言をしたとして話題となっているAマッソ。
個人的には、彼女たちに黒人を蔑む強い思想や大坂なおみを意図的に傷つけようとする意図はなかったと推察する。
本人たちも謝罪の言葉の中で無知であったと述べているように、今回の発言はネタの文脈を顧みても、無知によるものが大きいと考えられる。
今回の騒動が起きる以前から、Aマッソの芸風は、芸人からも「尖っている」と評されているが、彼女たちの尖り方が良い方向へ向いているネタもある。
それは「進路」というコントだ。
このコントは二部構成になっている。
前半は、進路を決めかねている生徒に対して教師がその生徒に夢を尋ね、その生徒はラーメン屋になりたいという本心を吐露。教師はその夢を応援するといったものである。
しかし、教師は応援こそするものの、その生徒のラーメン屋へは行かないと言う。その理由は、「女が作ったラーメンは生理的に食べられない」というものであった。このことは「ラーメン屋さんといえば男」「ラーメンは男が作ったほうが美味しそう」というジェンダーに関するアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を示している。
他にも、コントの中で以下のようなジェンダーに関するアンコンシャス・バイアスを提起している。
※一部、意訳や個人の意見を含んでいるため、必ず上記の動画を参照のこと。
「(サッカーの)ワールドカップのチケットをもらって、なでしこジャパンの試合だったら騙されたと思う」
→ワールドカップといえば男性の試合を連想する
→サッカー(広義ではスポーツ)は男性のもので、男性が行った試合の方が面白い
「(髪の毛が鬱陶しいという理由ではなく何らかの思想をもって)ショートカットにしている女は嫌い」
→女性は髪が長いことがスタンダードであることの提示。
→フェミニストをはじめ、なんらかの思想を持つ女性はショートカットが多いということの提示。皮肉にも男性に寄せていることを暗喩か。
※なお、Aマッソは2名ともショートカットであるが、このコントではあえて教師側がウィッグを着用しロングヘアにしている。
「Aマッソは嫌い(自虐)。所詮、男性の真似事で「しばくぞ!」といっても握力がないから怖くない」
「最近、女芸人がいっぱいテレビに出て面白くなったと言われているけど、テンプレートが蔓延しているだけ。コツを掴んでやりやすくなっただけ。」
→女性より男性の方が面白い。
→女芸人はあくまで「女」芸人であり、お笑いの世界が男性中心に設計されていることの提示。
→男性中心のお笑いに適応できている「女」芸人だけが売れている。その者たちはテンプレートのように画一的。
以上のようなバイアスに対して、生徒側は「先生は考え方が古い」と訴えると、教師側は「古くて結構、これが世論じゃ!」と反論する。
このように、女性である彼女たちが、主に男性優勢の社会やトピックに関して、自虐的に語ることで、暗に問題提起をしている秀逸なコントである。
もちろん、このコントを見て不快に思う者もいるだろう。しかし、「女性スポーツにも男性スポーツと同等の環境を」「男性中心のお笑い界を変革して、女性でも活躍できるようにしよう!」などと直接的に訴えても正論であるがあまり、面白みがなく、広く人々に訴えかけられないのである。
これは、女性であり「女」芸人である彼女たちだからできるネタである。これを男性が女装して披露したら、女性蔑視として非難されただろう。
今回の騒動は、この立場が逆であったため問題だったのである。仮に、大坂なおみ自身が白人優勢の社会を改めて問題提起するといったような意図を持って、漂白剤が必要と発言した場合、誤解こそ招く可能性はあるものの、このような批判は受けなかったであろう。
ポリコレとお笑いの妥協点を見つけるという作業は、グローバル化する世界を生きる今日のコメディアンたちにとっての課題といえよう。
Aマッソの今回の発言は無知によってその尖り方が人を傷つけうるものになってしまったが、秀逸なコントにおいてはその尖り方がお笑い界、ひいては日本社会に風穴をあけうるものになっている。
Aマッソの今回の発言は批判されて当然だが、個人的には、これからもAマッソの2人には「良い尖り方」でコントを作り続けてほしいと願う。