嵐のSNS解禁を批判的に考察する

世界的アイドル嵐という日本人向け神話づくり

⠀嵐は、国民的アイドルであったことは間違いない。しかし、嵐は世界的アイドルであるのだろうか?

⠀これまで、インターネット上に画像や動画を掲載しなかったということは、海外展開に注力してこなかったということである。ただし、海外においてNHKの番組を鑑賞するといったように正しい方法で嵐に触れる機会もあり、違法アップロードされたものを介して嵐に触れる機会もある。とはいえ、ネット上のコンテンツが充実しているK-POPと比較すると、海外からのアクセスは非常に難しく、普通に過ごしているだけで嵐のファンになることはないだろう。

⠀しかし、この度のSNS解禁を皮切りに本格的な海外展開を試みているように窺える。SNSの最初の投稿には、世界中のこんにちはが記された紙を抱える5人がポストされた。また、基本的にどの投稿においても日本語に加えて英語が付記されている。これによって、海外の人々が投稿を理解しやすいほか、日本人に向けてこの度のSNS解禁は海外展開を主目的としていることを示していると言える。

⠀ここから考えられるシナリオは、世界中の人が使用するSNSのフォロワー数=世界での人気という読み替えである。もちろん、海外のフォロワーも一定数はいるだろうが、大多数は日本人であろう。しかしながら、そのあたりは曖昧にされ、世界中にファンを抱える嵐が作り出されるだろう。また、海外でのコンサートも日本からどれだけのファンが帯同したかを曖昧にすることで、海外の大きな箱を埋められる肌の人気を誇る嵐という印象付けができる。

⠀このように、嵐を世界的アイドルに仕立て上げようとする背景には、ジャニーなきあとのジャニーズの権威づけという意図があると考えられる。もちろん、海外市場の開拓という意図もあるであろうが、ジャニーズにとっては、ジャニーズ、藤島氏の権威、求心力の維持が切迫した課題だろう。そのため、嵐が本当に海外で人気かどうかよりも、嵐はグローバルに活躍し世界的な人気を得ていたという印象付けを日本人に施すことの方が重要である。実際に、MVにおいては、嵐が世界で話題になっているような演出を挿入したり、外国人・飛行機などのモチーフを用いてグローバルに活躍しているような印象付けを行っている。

 

「J-POPを広めよう」の背景と真意

⠀近年、アジア圏でJ-POPを広めているのはAKB48グループであると言っても過言ではない。日本で製作された楽曲を現地語に翻訳し、現地の会いに行けるアイドルたちが歌唱している。

⠀では、ジャニーズはどうであろうか?これまで、J-POPを海外に広められる影響力を持っていたにも関わらず、広めてこなかったのは他でもないジャニーズである。今まで意図的にJ-POPを広めてこなかったジャニーズが、J-POPを広めようと訴えることは、方向の180度転換と言えよう。

⠀J-POPを広めようとする背景には、少子高齢化による日本国内市場の縮小と日本より先に国内市場の縮小が深刻化し海外展開に力を入れていた韓国のK-POPによるアジア市場の寡占がある。本来、K-POPはJ-POPのカウンターとして作られた概念であるが、現在の東南アジアにおいてはJ-POPがK-POPのカウンターとして認識されている。K-POPを意識しているからこそ、J-POPという言葉をあえて使ったと考えられる。

⠀また、本当にJ-POPを広めようとしている訳ではないことも留意する必要がある。現在においても、ジャニーズ事務所は他の芸能事務所の男性ユニットに対して圧力をかけている(あるいは、メディア側からの忖度が働いている)。このような状況の中で、非ジャニーズの男性ユニットのJ-POPも海外の人に聴いて欲しいなどと言えるだろうか。ジャニーズは日本の音楽業界を憂いてJapanese POPを海外に広めようとしているのではなく、あくまでJohnny's POPを海外に広めようとしているのである。

 

嵐の轍となったジャニーズJr.たち

⠀嵐に先行して、ジャニーズのデジタル解禁を担ったのは若手ジャニーズである。デビュー組はこれまでと同様にデジタルと距離を取りながら、「令和の」ジャニーズはデジタルにも積極的に取り組むという姿勢が窺えた。デビュー組>ジュニアという構図がある中で、下の者であるジュニアからデジタルを解禁したということは、デジタルを軽視していたということでする。ファンの中でも、テレビ>デジタルといった価値観は未だ強く残る。一方で、常に人気がありメディアへの露出があるデビュー組とメディアへの露出は少ないがデジタルを解禁することで人気を獲得したいジュニアの差別化は図れていた。

⠀しかし、この度の嵐のSNS解禁によって、そういった構図は崩壊した。事実上、ジャニーズのトップである嵐がSNSを解禁したということは、今後、トップダウン的にSNSが解禁されていくことや、ジャニーズのSNSタブーもゆるやかに消えていくことが予想される。

⠀このしわよせを受けるのは、若手ジャニーズである。デビュー組によって侵されないデジタル領域で活動しているというアイデンティティは失われた。むしろ、結果的にジュニアのSNSを先行して解禁させたことで、嵐のSNS解禁と海外展開が技術的にも世論的にも行いやすくなったといえる。つまり、ジュニアが嵐の轍となったということである。

⠀ 嵐のSNSを解禁した以上、活動休止までに何としてでもアジア市場で爪痕を残し、後に世界へ羽ばたきたいと願うジュニアたちの轍とならなければならない。