なぜ「ハーフ」のアイドルは人気投票に弱いのか?

 最初にお断りしておきますが、この記事を通して、外国にルーツのある方たちを差別する意図は一切ありません。ただし、ファン、アイドル文化、日本社会が持っているかもしれない潜在的な排他性について、アイドルグループにおける多様性について考えるために、事例を取り上げながら述べていきます。

 「ハーフ」という日本独自の呼称についても、当事者からも賛否の声が上がっていることを理解した上で、それでもなお外国にルーツを持つタレントが「ハーフ」として括られる現状を鑑み、この記事では「」付きで使用します。

 


男女問わず「ハーフ」のアイドルは人気投票に弱い?

 


 容姿端麗である(とメディアで表象されやすい)「ハーフ」の人は、人気アイドルになれるのでは?と思われる方も多いかもしれません。しかし、アイドルファンの方なら、「ハーフ」のアイドルが人気を得ることの難しさを体感的に理解していらっしゃるのではないでしょうか?


 そもそも「ハーフ」のアイドルの絶対数が少ないため、傾向と呼んでいいものか悩ましいですが、「ハーフ」のアイドルが人気投票の結果で伸び悩むという事例はいくつも見られます。


 例えば、48グループにはこれまで「ハーフ」のアイドルが何名か在籍していましたが、AKB48選抜総選挙において、ランクインできたメンバーはごくわずかで、そのメンバーであっても苦戦を強いられることが多くありました。


 女性アイドルに限ったことではありません。「PRODUCE 101 JAPAN」には、海外にルーツを持つ練習生が多数参加しましたが、「ハーフ」の練習生は軒並み苦戦を強いられます。

 

 これは日本に限ったことでもありません。韓国で放送された「PRODUCE 101」でも、(投票操作があったことを鑑みても)同じような傾向が見られます。


 なぜ、このような現象が起こるか、5つの理由が考えられます。

 


知名度と実人気に乖離があるから

 同質的なグループメンバーの中で、「ハーフ」の練習生は、その容姿(や名前)から、アイドルファンであるかに関わらず多くの人の目に留まります。

 容姿(や名前)だけでなく、その特殊な境遇などから、バラエティー番組をはじめ、幅広くメディアに取り上げられやすい傾向にもあります。

 以上のことから、「ハーフ」のアイドルは知名度や認知度を得やすいと言えます。

 知名度・認知度=人気と捉えることもできますし、そう捉えている人も多いと思われます。

 しかし、知名度がある、認知しているだけでは、投票という手間のかかる人気投票の結果には結びつきません。

 「ハーフ」のアイドルは、知名度や認知度は他のメンバーと比べて高い傾向にあるため、実人気より人気が高いように錯覚してしまい、実人気を反映している人気投票において順位が伸び悩んでいる印象を受ける可能性が考えられます。

 


②ファンの応援がなくても芸能界で仕事がしやすいため

 ファンが人気投票において推しを1つでも高い順位に上げようとする動機には、選抜入りさせたい、デビューさせたい、メディアにたくさん取り上げられてほしい、等といった願いが挙げられます。

 つまり、ファンがファンの力によって、推しの芸能界での活動や仕事(とりわけ外仕事)を獲得・保証しようとしていると言えます。

 しかし、「ハーフ」のメンバーは、ファンの力に依存せずとも、自身の容姿や境遇などによって、モデル仕事やバラエティー仕事などの外仕事の依頼を受けることができます。

 ファンは、人気投票において貴重な1票を投じる際に、芸能界において仕事に困りにくいメンバーと仕事に困り得るメンバーがいれば、後者を優先するでしょう。

 また、ファンがいなくても活躍できる「ハーフ」のアイドルはそもそもファンを獲得しにくいと考えられます。

 


③グループには必要だけど1番必要なメンバーとは考えられにくいため

 韓国において、多国籍アイドルグループが多数誕生しているように、日本においてもアイドルグループに国際性や多様性を求める機運があります。

 ここまで、「ハーフ」のアイドルが人気を得にくい、人気投票の結果で伸び悩みやすいと述べてきましたが、かといって、グループに必要ないと判断される訳ではありません。

 グローバルボーイズグループを作るというコンセプトを掲げた「PRODUCE 101 JAPAN Season 2」では、多くの「ハーフ」の練習生が参加しました。

 ファンがデビューしてほしい11人を選んだ(11pick)投票結果では、多くの「ハーフ」の練習生が上位にランクインしました。

 しかし、投票がデビューしてほしい2人を選ぶ方式(2pick)に変わると、多くの「ハーフ」の練習生が大きく順位を落としました。そして、デビューしてほしい1人を選ぶ投票方式(1pick)に変わった時に、「ハーフ」の練習生は全滅しました。

 このことから、「ハーフ」の練習生は、グローバルを演出する役割として、デビューするグループにはいてほしいけど、”一番”必要、”一番”好きなわけではないという判断を下されるため、”一番”を測る人気投票では伸び悩みやすいといえます?

 


容姿や境遇に親近感を覚えにくいため

 高嶺の花が人気者になるという側面もありますが、「投票」には親近感が必要と言えます。

 これは、アイドルの人気投票に限ったことではありません。

 政治家は、自身の高潔さや優秀さをアピールしながらも、駅前で演説し、道ゆく人と握手し、有権者との心理的な距離を縮めます。

 アイドルも投票してもらうためには、ファンに親しみをもってもらう必要がありますが、高嶺の花になってしまいやすい「ハーフ」のアイドルはそこに困難を抱えます。

 最も安直な例で言えば、「地元票」を得られないことが挙げられます。

 全国規模の投票イベントでは、地方出身のアイドルが有利になります。

 例えば、AKB48選抜総選挙で複数回1位に輝いた指原莉乃さんは、大分県出身で投票期間中も投票期間外も多くの大分県民から親しまれ、高い人気を誇っています。

 「地元票」のみならず、一般的な「日本人」が自身と重ねて応援できる要素が少ない「ハーフ」の練習生は、人気投票において票を集めにくいことが考えられます。

 


⑤アイドル文化がアジアの文化であるから人気が出にくい

 ここまで、あたかも「ハーフ」で人気になったアイドルはいないかのような口ぶりで話してきましたが、人気を獲得した「ハーフ」アイドルももちろん存在します。

 最近の例ですと、ミャンマーにルーツを持つ乃木坂46齋藤飛鳥さんが人気を博していますし、フィリピンにルーツを持つ元AKB48秋元才加さんは選抜総選挙で複数回の選抜入りを果たし、高い順位をキープし続けました。

 しかし、これまで人気を博してきた「ハーフ」アイドルの多くは、アジア(とりわけ東 / 東南アジア)にルーツを持つ「ハーフ」です。

 ただし、必ずアジアにルーツがあるかという血統主義的な考えよりも、(東)アジア的な容姿であることが条件のように思われます。

 元AKB48選抜総選挙で1位を獲得したことのある大島優子は、アメリカにルーツを持つ「クォーター」ですが、そのことを知らない方も多いでしょう。

 アイドルに多様性や個性が求められる機運がある一方で、アイドルの衣装、メイク、パフォーマンスなどが「似合う」ためには(東)アジア的な容姿が必要であるという条件はありそうです。

 日本の伝統芸能におけるメイクや衣装、振り付けが、一般的な「日本人」が美しく見えるように設計されているように、東アジアにおけるアイドル文化も、一般的な「(東)アジア人」が輝けるような設計になっている可能性があります。

 


最後に

 


ファンが多様にならない限り、アイドルは多様にならないのでは?

 


 「ハーフ」のアイドルが人気投票で苦戦する根源には、「ハーフ」を珍しいものとして重宝する芸能界があると考えられます。

 しかし、芸能界においてのみ「ハーフ」が珍しがられているわけではなく、日本社会にとっても未だ「ハーフ」が珍しいものとして認識されているため、それがメディアに反映されているとも考えられます。

 日本社会において、海外にルーツを持つ人々がいることが自然なことになり、ファンの中にも海外にルーツを持つ人々が増えたときにはじめて、芸能界においても「ハーフ」が珍しいものではなくなり、「ハーフ」のアイドルが「ハーフのアイドル」から卒業することができ、人気投票でも不利に働くことは減るのではないかと考えます。