女性アイドル戦国時代が終わった3つの理由

2010年代は女性アイドル戦国時代だったといえよう。

しかし、2020年代に入り、女性アイドル戦国時代は幕を閉じた。

なぜ、女性アイドル戦国時代は終焉を迎えたのか。

 

①コロナ感染拡大による影響が凄まじかった

 2010年代に人気を博した女性アイドルグループのほとんどは秋元康がプロデュースしたグループであった。

 秋元康プロデュースグループの共通点は、握手券などの特典付きCDやアルバムの売り上げに依存している点である。

 コロナによって、秋元康プロデュースグループは握手会が開催できなくなり、大きなダメージを受けた。オンラインお話し会といった代替サービスで対応するも、実際に会える握手券に劣るものであり、コロナ前の売上を維持することはできなかった。

 また、握手券を多く売るためには、数十人規模のメンバーを抱え込む必要があった。大所帯グループという特徴も、大人数で集まり密を作らないというコロナ対策との相性が悪かった。

 さらに、握手会などの特典によってCDが売れてしまうことによる怠慢から、音楽性やパフォーマンスの完成度が軽視されていたという指摘もある。コロナによって、握手会などの特典がなくなったことにより、少人数でも音楽性やパフォーマンスの完成度が高いグループの相対的な価値が上がった。

 このように、握手会と人数の多さでCDを売り上げ「人気」とする手法が、コロナ禍において通用しなくなった。むしろ、握手会や人数の多さに依存し、その他の部分を疎かにしていたツケが回ってきたと言えよう。

 ここまで、秋元康グループの状況を述べたが、コロナが影を落としたのは秋元康グループだけではない。むしろ、事務所の大小に関わらず、地上アイドルグループから地下アイドルグループまで全てのアイドルがコロナによるダメージを受けた。公演やコンサートが開催できず、それに伴う物販の収益も得られないという致命傷は、全てのアイドルグループが負ったものだろう。

 アイドル戦国時代に生まれたグループが次々と解散し、女性アイドルグループの絶対的な数が減っていることからも、女性アイドル戦国時代の終焉を感じられる。

 

②世界的なガールズクラッシュの流れに乗れなかった

 世界的にはフェミニズムの後押しもあり、BLACK PINKに代表される女性が思わず恋に落ちてしまうような女性「ガールズクラッシュ」のグループが人気を博している。

 日本において、「ガールズクラッシュ」的なグループを作り出す試みはなかったわけではない。E-girlsやFairiesが日本産の「ガールズクラッシュ」的なグループと言えるだろう。しかし、日本においては「アーティスト」と分類されがちであった上、どちらのグループも日本音楽界の覇権を握るまでには至らず、解散してしまった。

 やはり、日本の女性アイドルの覇権を秋元康が握っていたことから、女性アイドルは「清純」というイメージが確固たるものとなった。

 乃木坂46のメンバーの清楚さやルックスに憧れる女性もいる。しかし、それは強く独立した女性像「ガールズクラッシュ」とは真逆の女性像であり、どちらかと言えば、か弱く男性の庇護欲を掻き立てるような女性像だろう。

 また平手友梨奈が率いた欅坂46や櫻坂46は「かっこいい」グループとして、坂道シリーズの中では一線を画している。しかし、彼女たちが主に歌うのは「大人・世間・権力者へのレジスタンス」である。他のグループと同様、ほとんどの歌詞の一人称は「僕」であり、いわゆるフェミニズム的な要素は感じにくい。

 現役メンバーの中では、AKB48岡田奈々が「ガールズクラッシュ」的なメンバーと言えるかもしれないが、知名度・人気共に彼女が日本のアイドル界の中心にいるとは考えにくい。

 このように、秋元康が得意としていた「僕」が「君」に恋をするストーリーを女性アイドルに歌わせる手法や、か弱さ・未熟さ・あどけなさを売りにするような手法が、世界的な「ガールズクラッシュ」の流行に伴い、前時代のものになった、あるいはガラパゴス化したと考えられる。

 

③男性ファンにファンダム文化が根付かなかった

 2010年代と2020年代ではアイドルの応援の仕方が変わったと言えよう。

 これには、コロナウイルスの影響、SNSの進化、K-POP式の応援の普及、人気を測る指標としてのビルボードの台頭など複数の理由があると考える。

 2010年代を象徴する女性アイドルの応援方法は「AKB総選挙」式の応援である。

 この応援方法は、投票券を買えば買うほど、そのアイドルの応援に繋がるという極めて分かりやすい応援方式である。単純比較はできないが、キャバクラやホストクラブのそれと限りなく似ていると言えるだろう。

 しかし、この応援方法には問題があった。それは経済的に余裕のある中年男性の応援が最も反映されやすく、経済的に余裕のない若年層や女性の応援が反映されにくいということである。

 これは、総選挙に限ったことではなく、円盤の売り上げ全てに共通して言えることで、若年層や女性は女性アイドルの応援において無力感を感じざるを得なかった。

 しかし、2020年代に入り、CDの売り上げという唯一の指標だけで人気を測ることが疑問視され始め、YouTubeの再生回数やストリーミングサービスでの再生など複数の観点から人気を測るビルボードでの順位が重視されるようになった。

 そのため、CDを買う以外にも、YouTubeを何度も再生する、Twitterでつぶやく、複数のサービスからデジタル音源を購入するなど様々な応援が可能となった。

 この応援方法の多様化によって、比較的時間に余裕のある若年層や女性たちの応援の力が強くなったといえる。これまで金にものを言わせてきた中年男性の応援の力が弱まったと考えられる。

 さらに、若年層や女性たちを中心にファンダムを形成し、組織的にSNSでのトレンド入りを目指したり、YouTubeの再生回数を回したりするようになった。世界で最も大きなBTSのファンダム、ARMYが典型例と言えるだろう。

 日本の女性アイドルにおいては、選挙対策本部や生誕委員のように、排他的なファン集団が作られたことがあるものの、全てのファンを包括するファンダムはなかなか作られなかった。AKB48乃木坂46においては、現在に至るまでファンの総称すら存在しない。

 このように、これまで中年男性の個別の応援に依存しており、老若男女の垣根を越えたファン同士による強い結束を持たなかった女性アイドルグループは、CDの売上は好調なものの、YouTubeの再生回数やストリーミングサービスでのランキングが伸び悩み、"実人気"が露呈することになった。

 

以上のことをまとめると、

・2010代に女性アイドル界の覇権を握った秋元康グループの手法が通用しなくなった

・しかし、コロナの影響により他のグループもダメージを受け、秋元康グループに代わる勢力が台頭してこない

・ダメージを受けにくかったのは、「会いに行けない」が前提で、握手イベントやコンサートでの収益に依存せず、音楽性やパフォーマンス性を極め、ファン同士の強い結束を持つK-POPグループだった

 

次回記事では、アイドル応援の担い手が経済的に余裕のある中年男性から、時間的に余裕のある若年層と女性に変わったことから、男性アイドル戦国時代が到来していることを取り上げます!